ひとり暮らし

雑記。日々思うこと。

交遊録

 

交遊録 (講談社文芸文庫)

交遊録 (講談社文芸文庫)

 

 

 神保町にある東京堂書店や古書展でやたら吉田健一の名前が目に付く。教養だけではない、地頭の良さがわかる文章には人の熱と読者への親しみがこもっている。

 

 人との縁というのは不思議なものだ。あらかじめ用意されていたもののように人と人は繋がり、役目を果たすと離れていく。わたしがよっぽど世間知らずに見えたのか、はたまた、他人に教えることで優越感を得たいがためなのか、それとも、ほんとに世のため人のため、与えることが社会全体を向上させるだろうという善意の上でのことなのか、まったくの初対面であるにもかかわらず、あーだこーだと教えてくれる人たちがいる。若い頃の私なら、彼らの善意を疑ってかかり、内心、「だまされてなるものか」とほくそ笑んだものだが、歳を取り、いくらかでも世間を知るようになってきてからは、人を疑うよりも信じて生きたほうが幾分、楽に生きられることに気がついた。もちろん魑魅魍魎のはびこるこの世の中で、なんでも鵜呑みにしていればいいというようなことはなく、人を疑うことは必要なことだ。ただ今になって思えば、あのときもっと素直でさえいれば、たくさんの恩恵に与れたのかもしれないのに、そのときの自分はそれを否定して受け取れず、なんと心の器の小さい男だと、今になって自分を叱責したい気分にもなったりする。ただそのような経験があったからこそ、心の器というものも少しずつ大きくなり、決して裕福ではなくても、人並みに生活できているこの事実は今までの出会いが与えてくれたものだといまさらながら感謝の気持ちが出てくる。私も人に何かを与えられる人間になっていきたい。