ひとり暮らし

雑記。日々思うこと。

文学空間特装版

 

文学空間

文学空間

 

 

 ブランショの文学空間には特装版というものが存在する。駒井哲郎氏の銅版画が封入されたものだ。市場には思い出したように湧いて出ることもあるが、数そのものの少なさもあり、貴重なものだといっていいだろう。私も何度か売りに出されているのをネットで見かけていたが、なぜかそのようなときに限って金欠だったり、精神的に不安定だったりして、手に入れるチャンスを逃し続けている。古本収集をする身にはよくある、「なぜか縁のない本」というのが存在するが、私にとっては文学空間特装版がそれにあたる。

 

 私の所持しているものは旧壮丁の箱が欠けた古いものだ。他人の皮脂とタバコのやに、そして複数人の手による書き込みにまみれたお世辞にも綺麗とはいいがたい代物だが、これが駒井氏の手がけた黒い嵐のような壮丁も相まって、魔術めいた禁断の書、とでもいうような異様な雰囲気をたたえたものになっている。もしやこいつがいるから特装版が手に入らないのではないか、などと思い込んだりもするが、失ってはじめて気づく価値というのもあるだろうからそのままにしている。様々な人の手を渡ってきたであろうこのくたびれた本と、新品同様で美しい銅版画の付いた特装版、どちらに価値を感じるのかは人によって様々だろうが、なにかそこには人を大きく分けるものがあるような気がしてならない。